パワハラ上司の心理~攻撃的な上司の対処法~

昨年は、兵庫県の斎藤知事のパワハラ問題が大きく報道されました。

それ以外にも、会社ぐるみで同僚の男性社員を日常的にいじめ、最終的には線路に立たせ自殺に追い込む、という残忍な事件もありました。

逆らうことができないという立場の違いにつけこんで行われるパワーハラスメントはなぜ起こるのでしょうか。パワハラをはらたく上司にはどのような心理があるのでしょうか。どう対応すれば良いのでしょうか。

パワハラが起こりやすい環境

ハラスメントが起きやすい職場には、いくつかの共通点があります。それは、

①社員同士のコミュニケーションが少ない

②管理職の指導力が欠如してる

③個人による業務が多い

④成果主義・能力主義を導入している

⑤過重労働である

⑥社員の入れ替わりが激しい

⑦業績が悪化している

などです。

中でも一番の共通点が①のコミュニケーションの少なさです。

従業員同士で気軽にコミュニケーションが取れないような緊張感の高い職場だったり、上司や先輩が絶対で気軽に話しかけられない、などという環境です。

また、②~⑦のようなストレスフルな環境であることがパワハラを生む大きな原因です。

売上目標を絶対に達成しなければいけない、ミスをするとミスした本人が皆の前で見せしめの様にひどく罰せられる、有休も満足に取れない、業績が悪化しているから、従業員にノルマを課して過重労働させる、そして管理職がぜんぜんダメ、こういう環境はやはりハラスメントが起きやすい、というのは想像に難くないかと思います。

そして、ストレスは強いところから弱いところに流れる、という性質があります。

つまり、管理職が持っているストレスを立場の下の人に押し付けていく、ということになるのです。

スケープゴーディング現象

このような現象を「スケープゴーディング現象」といいます。

スケープゴートというのは、「身代わり」とか「生贄のヤギ」をさす言葉です。

給料が上がらない、残業代が払われない、などのストレスフルな環境に置かれ、不満や不安を抱えたままくすぶっている時に、誰かをスケープゴートにしてとりあえずのストレスを発散することで、本当の問題から目をそらしたり逃げている場合があります。

このスケープゴーディング現象というのは至る所で見られます。

例えば、最近、よく芸能人のSNSがちょっとした発言で炎上することがありますよね。

そうすると、鬼の首を取ったかというように、皆で一斉に攻撃する、ということがあります。

これも、鬱屈した気持ちを抱えていたり、普段からストレスフルな状態に置かれている人が、ここぞとばかりにスケープゴートを見つけてそれを攻撃することで、本当の問題は何一つ解決していないのに一時的にスッキリしたような気持ちになっているということです。

ミルグラムの実験(アイヒマン実験)

スケープゴーディング現象とはまた別に、人間と言うのは置かれた立場と環境に作用される生き物である、ということを実証した有名な実験があります。

それは、「ミルグラム実験」というものです。

ミルグラムというのはユダヤ人の心理学者です。

ミルグラム実験とは、閉鎖的な状況における権威者の指示に従う人間の心理状況を実験したものです。アイヒマン実験ともいいます。

アイヒマンとは、大勢のユダヤ人を強制収容所に送る指揮をとったナチス親衛隊中佐のことです。終戦後、逃亡していたアイヒマンが捕らえられ、イスラエルで裁判が行われました。その際、どれほどの残虐な悪人なのかが注目されたのですが、上からの命令に従っていただけのどこにでもいる普通の人だったのです。

この実験は、なぜ極悪人でもない普通の人があれだけの大虐殺を行うことができたのか、ということを解き明かすために行われた実験なのです。

では、どのような実験だったかと言うと、大学の博士役、先生役、生徒役にわかれて、先生役が出す問題に正解できないと、生徒役に電流が流され、間違うごとにその電圧が上げられていくというものでした。

生徒役は、実際には電流は流されておらず、流されて苦しむ演技をしているのですが、生徒役は電流を流されるたび、うめき声をあげ、絶叫するのです。

先生役は最初は電流を流すことを躊躇し、拒否するのですが、博士役から「続行してください」「続行していただくことが必要です」と通告されると、なんと大半の人間が致死量に至るまで電流を流し続けたといいます。

最初に生徒役が「心臓に持病がある」と言っていたり、電流を流すうちに叫び声さえあげず無反応になってしまったりしても最後まで流し続けたのです。

このことから、人は権威のある人から命令され、役割を与えられると簡単にモラル違反をしてしまう、ということが分かりました。

善良な普通の人が、権威に逆らえず罪を犯してしまう、ということが組織ではよくあります。「悪い」とわかっていながら、長いものに巻かれてしまうわけです。

このように、権威者に命令されてモラル違反をしている時の状態を「エージェント状態」と呼んでいます。

ミルグラムによれば、エージェント状態にある時は「上の指示に従っただけ」という心理にあるため、自分に責任があるとは思っていないのです。

先ほどのスケープゴーティング現象によって、ターゲットとされる新入社員がいたとします。そうすると、その指導係の社員が「上からもっと厳しくやれといわれて仕方なくそういう行動をとった」とか「上の指示に従わないと、私が責められるので仕方なく」などという気持ちになってハラスメントをエスカレートさせてしまう、ということがあるのです。

そしてそのような環境にずっと身を置いていると感覚がマヒしてしまい、厳しい状況を「当たり前」と感じてしまうのです。

パワハラ上司の特徴

また、環境だけではなく、パワハラを行う上司の個人的な資質ももちろん関係があります。

パワハラ上司の特徴には大きく分けて言うと、2つのタイプがあります。

それは①自分に自信がなく自己肯定感が低いタイプ②その反対に、自信過剰で自分が絶対だと疑わないタイプです。

①自信がなく自己肯定感が低いタイプ

このようなタイプは自分が「上」であり、相手が「下」であることを強調することで、優越感を得ようとすることが特徴です。なぜそのようなことをことさら強調するのか、というと実は内面では自分に自信がなく、自己肯定感が低いからなのです。

劣等感や焦りがあったり、自分の能力に自信がなかったりする場合、それを隠すために他者を攻撃し、相対的に自分を優位に立たせようとすることがあります。

②自信過剰で自分が絶対だと疑わないタイプ

このタイプは自分のやり方が絶対だと思っていて、それ以外の方法を認めなかったり、人それぞれ得意不得意がある、などの多様性を認められない人が多く、相手の立場にたって物事を考えることができないタイプです。

自己中心的な思考があることも多く、周りを自分の思い通りに動かしたいという支配的な考えがあったり、共感性に乏しく相手の気持ちを無視したりすることもあります。

パワハラ上司への対処法は?

このような環境や上司に対してはどのように対処すると良いのでしょうか。

原則としては相手に問題があったとしても相手を変えることは難しい、ということです。

よって、このような場合は自分自身の考えや行動を変えることです。

それには二つの方法があります。

それは①戦う②逃げるか、ということです。

①戦う

戦うというのは暴言、暴力で対抗するのではなく、冷静に適切に対処するということです。

発言や行動を具体的に記録し、証拠を残し、場合によっては社内の相談窓口、労働組合などに相談することです。社内で解決できない場合には、労働基準監督署や弁護士に相談するという方法もあります。

②逃げる

組織的に問題が多いという場合は、個人で戦うことに限界がある場合もあります。

そういう場合は無理をせず、休職や転職などの判断をすることが賢明なこともありますので「逃げる」という選択肢もある、ということを忘れないことが大切です。


人生には思い通りにならないことや理不尽に感じる物事が多々あります。

カウンセリングを勉強すると、そのようなストレスをコントロールする方法や物事を柔軟に対処する方法が学べます。

それにより、人生を深くとらえたり生きやすくすることができるのです。

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カテゴリ:コラム