レジリエンスの育て方~折れない心をつくるには~
今年の3月11日で東日本大震災から10年を迎えました。
愛する家族や住み慣れた家や故郷を失った人もいて、被災された方にとっては最大のストレスだったことと思います。
あのような大きなストレスにさらされたときには、PTSDや鬱状態など何らかの心の問題を抱える方が多いのですが、その状態から立ち直りが早い人と長く引きずって立ち直るのに時間がかかってしまう人がいます。
この両者は何が違うのでしょうか?
それには「レジリエンス」が重要であると言われます。
- レジリエンスとは何か?
- レジリエンスが育まれないと?
- レジリエンスを育む上での考え方
- レジリエンスを育む具体的な方法は?
レジリエンスとは何か?
レジリエンスとはもともとは物理学の言葉で「復元力」とか「回復力」を意味する言葉です。Yシャツでも形状記憶のものが出ていますが、この記憶形状のように元に戻ろうとする力のことです。
心理学の世界ではうつ病の予防策としてポジティブ心理学のマーティン・セリグマンの研究などで知られるようになりました。
しかし元々はナチス・ドイツのユダヤ人虐殺「ホロコースト」で生まれた孤児たちの調査がきっかけであると言われています。
孤児の中には恐怖体験から立ち直れず生きる気力を失っている人がいる一方で、過去のトラウマを乗り越えて幸せに生きている人がいる。この両者の違いは何か? ということが調査されたのです。
レジリエンスとはアメリカ心理学会では『逆境やトラブル、強いストレスに直面した時に適応する精神力と心理的プロセス』と定義されています。
レジリエンスが育まれないと?
では心にレジリエンスがないと、どうなるのでしょうか?
レジリエンスとはいわば「しなやかさ」と言えます。
よってレジリエンスがないと、ストレスがかかってきたときに心がポキッと折れてしまうことになります。無気力になったり鬱状態になったりしてそこからなかなか抜け出せない、ということになってしまいます。
例えば私たちの心を竹の木と柳の木に例えてみましょう。
竹の木のようにスクッと1本直立しているのも見事ですが、強い風が吹いてきたらポキっと折れてしまいます。こうなってしまったら、もはや修復不可能です。
一方、柳の木は、強い風が吹いてくるとサッとしなう。しかし風がやめばまたもとに戻る。このしなやかさ、これがレエジリエンスなのです。
一般的には眼前の状況に一喜一憂しやすい人、長い目で全体が見られない人(俯瞰して見ることができない)、感情に振り回されてしまいやすい人、頭が固い人などは心が折れやすいと言われます。
レジリエンスを育む上での考え方
レジリエンスを育むことは、よく言われるようなポジティブシンキングをするということではありません。今、多くの人が「コロナは怖い、かかったらどうしよう」と不安になるかと思いますが、このように将来に不安を感じたり、コロナを怖がったりすることはごくごく自然な感情です。
そのような当然のネガティブな感情をなくして無理にポシティブに生きることではなく、ネガティブな感情にとらわれてしまう悪循環に陥らなければ良いのです。
そのためにレジリエンスを育むためにははまず、現実を直視して正確に理解したうえで物事を柔軟にしなやかに捉えて対応策を考えていけるような合理的な思考を持つことが重要です。
レジリエンスを育む具体的な方法は?
いろいろな方法がありますが、基本的には
①柔軟にものを見られること
②感情をコントロールできること
③将来を肯定的にとらえられること
などです。
①柔軟にものを見られる眼を養う
いろいろな経験の中からたえず別の見方はできないか?考えてみることです。
カウンセリングの技法に「リフレーミング」というものがあります。
これは、今まで一つの見方しかできなかったものが他の見方をしてみることで視野が広がることです。
例えば、「自己主張できない」ということをリフレーミングしてみると、「協調性がある」「謙虚である」と言えるかもしれませんね。
②感情をコントロールする
不安や鬱、恐怖などのネガティブな感情は取り去ろうとすると余計にそこに気持ちが向いてしまいます。さらに感情は力ずくで取り去ろうとすると逆の方向にいってしまいます。眠れない時に力ずくで眠ろうと努力すると余計に目が覚めてしまう、ということと一緒です。
不快な感情は一歩離れて客観的に眺めることが出来れば静まっていきます。
カウンセリングでは、感情モニタリングという方法や、自律神経のバランスをとっていく自律訓練法などの各種のリラクゼーション法、Googleなどでも取り入れられているマインドフルネスなどの技法が有効です。
また、もう一つのポイントとしては、何かに夢中になることです。無我夢中という言葉があります。日本では三昧なんていいます。そういう心理状態になった時やなにかに没頭しているときはネガティブな気持ちはなくなっています。
こういう心理状態の時をアメリカの心理学者チクセント・ミハイは「フロー」と呼んでいます。このフロー状態を作り出すことです。
何かに熱中できるものをもつことも大切です。
③辛い体験の中から意味を見出していく
PTSDになるような辛い体験をした人達の中に、その後心理的な成長を感じる人が多くいることが最近の研究でわかってきました。これをPTG(トラウマ後の成長)と呼びます。
ノースカロライナ大学のリチャード・テデギス教授は「人生の危機でもがき苦しんだ結果起こるポシティブな変化の体験」と言っています。
人生は不条理です。その不条理さを受け入れ、もがき苦しんでいくプロセスの中でポシティブな変化がその人の内面で生まれ、この変化が人としての成長につながると言われます。
具体的には人間関係が豊かになったり、人としての強さや優しさを身に着けることができたりする、などです。
辛い体験がなくなったから、もうそれで終わりと言う人はレジリエンス力はつきません。例えば失恋しても、「あの時辛かったけれどもう新しい彼が出来たからいいんです」では成長はないでしょう。そしてレジリエンス力もつきません。
大切なことは過去の辛い体験から意味を見出すことなのです。
それには、一歩離れて俯瞰して振り返ってみる作業が必要です。これをリフレクション(内省)といいます。
また、こういった辛い体験を物語化していくことを「ナラティブ・カウンセリング」といいます。同じ辛い出来事でもどう物語化されるかは人によって違います。それが人生経験の解釈に違いをもたらすわけです。
ナラティブカウンセリングでは、辛い体験を俯瞰することを「メタビュー」といいます。その辛い体験にはどんなメッセージが隠されているのか?何を自分に教えてくれているのか?などを高いところから探求し、意味を見つけ出していきます。
ただ辛い体験を振り返る作業なので、痛みを伴い一人ではできないこともあります。その場合にはカウンセラーが必要になってきます。
しかしここで得られた人間的な成長はまさしく究極のレジリエンス力そのものです。
人が不条理な出来事にさらされ、大きなストレスに見舞われて心がダメージを受けてしまうのは当然の反応です。でも大切なのはそこからレジリエンスをもっていかに立ち直るか、なのです。
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