DV加害者の心理

昨今のコロナ禍では、外出自粛により「DVの増加」が問題になりました。

最近では、サッカー選手や男性タレントの交際女性に対するDVが報道されました。

DVとは「性的な関係にある親密な異性から受ける身体的、精神的暴力」のことです。

最初は、「この人だ」と思って相手を好きになって恋愛関係なったり結婚したりしたわけですが、徐々に雲行きが怪しくなって、最も親密な人が最も恐ろしい存在になってしまうことがあります。

なぜ、最も愛すべき相手を傷つけてしまうのでしょうか。

DVとは

DVとは正確にはドメスティックバイオレンスと言います。

「ドメスティック」とは「家庭内」という意味です。ただ、最近は「家庭内」にとどまらず、「デートDV」と言って、交際中の異性からの暴力も問題になっています。つまり親密な異性からの暴力を指します。

DVが社会問題になったのは、90年代後半ごろマスコミに取り上げられるようになってからです。それまでももちろんDVはあったのですが、特に日本では「妻は夫に従うべき」という考えや「家庭内のことを外へ漏らすのははしたないこと」「他人が介入すべきことでない」という社会通念が根強く、表に現れてこなかったということです。年々相談件数は上がっているものの、内閣府の調査によれば、今でも約半数の被害者が誰にも相談できずにいるといいます。

DVの種類

では、どんなことがDVと呼ばれるのか、ということですが、一言でいうと、「相手の尊厳を認めない行為」ということです。

DVとされるものには次のようなものがあります。

①身体的暴力

 殴る、蹴るなど

②精神的暴力

怒鳴りつける、侮辱する、無視する、大事なものを壊す、など

③性的暴力

意思に反した性行為の強要や浮気を認めさせる、など

④経済的暴力

生活費を渡さない、借金を負わせる、など

⑤社会的暴力

実家や友人との付き合いについて制限をして妻を独占しようとする、など

⑥子ども利用した暴力

子どもに非難させたり、中傷することを言わせる、「子どもに危害を加える」と言って脅す、など、

これらが複合的に行われます。

暴力のサイクル

そしてこれらの暴力にはサイクルがあります。

①怒りのパワー、緊張の蓄積

怒りのパワーが少しずつため込まれ、ちょっとした攻撃が起こる時期。言葉や軽い暴力によるちょっとした虐待が続く時期。

被害者は相手を落ち着かせるために必死の努力をはかります。

②攻撃の爆発

高まった緊張が放出されて強烈な暴力が展開される時期。エネルギーがすっかり解き放たれるまで、加害者は爆発的な暴力を自分でもどうにもコントロールできません。

③ハネムーン

加害者は自分の行動を後悔し優しい態度を被害者に示します。もう二度と被害者を傷つけないことを誓い、暴力的な行為を詫び続けます。この時期があるからこそ、被害者はもう一度やり直せる、変わってくれると思い込んでしまいます。

ところが、この時期が終わればまた、緊張の蓄積へと移行するのです。

これがどのくらいの周期で繰り返されるかはカップルによって違うのですが、DVの問題を抱えている多くのカップルにこのサイクルがみられるといわれています。

加害者の行動特徴

加害者は多くの場合、一見どこにでもいる普通の男性です。外では「大人しくて真面目」という印象を持たれている人や、社会的地位の高い仕事についている人も多くいます。だから、被害者が「DVの被害にあっている」と訴えても「まさか、あの人がそんなことするわけない」と信じてもらえないこともあります。

加害者の行動にはいくつかのパターンがあることがわかっています。

①異常に嫉妬深い

「今、何やってるの?」なんて、相手にしょっちゅう行動を報告させたり、ちょっと他の異性としゃべっただけで浮気を疑ったりします。

②支配欲が強く、他者をコントロールしたがる

相手が自分のコントロール下から出ようとすることを許さず、相手が自分 以外の人間と接触するのを嫌がっり、自分の自由になるお金を持つことを嫌がったりします。そうしているうちに、被害者はどんどん周囲から孤立してしまい、助けを求めたり逃げたりできなくなってしまいます。

③男尊女卑の考えを持っている

女性は男性につかえて当然、妻は夫に従うもの、という考えが強いということです。だから、それに従わない妻を殴ってもそれはしつけであり、暴力ではない、という考えを持っていることがあります。

④暴力の正当性を訴え、相手に責任転嫁する

「妻の行動しだいでは暴力も許される、あるいは必要である」という考え方があり、暴力を正当化し責任転嫁します。

加害者の心理

ではなぜ、このような行動をとってしまうのでしょうか。

(1)社会的学習理論

DV加害者の中には暴力的な行為を見て育った人も多いと言われます。例えば、父親が母親に対し、何かにつけて暴言を吐いたり暴力をふるったりする場面を見てきて成長してくると、感情の表現や争いの解決手段として暴力という方法を学習して,その方法を実践してしまうということがあります。子供にとっての一番のモデルはやはり親です。親をモデルにしてその方法を学習します。そしてそれを実践するわけです。すると、本来は自分が不利な言い争いの場面でも暴力という手段を使ったら相手がいうことをきいた、という経験をするとそれが報酬となり、その行動を強化するわけです。

(2)成育歴

このような家庭環境を含め、DVの加害者の中には、自分自身が虐待の被害者だったということが少なくありません。心理学者のドナルド・ダッドンの研究によると、DVなどの虐待の加害者は、自分自身がPTSDのような症状をもっており、その原因が①父親からの辱められたり、拒絶された体験②母親との不安定な結びつき③虐待の直接体験である、としています。これらの要素が同時進行的に発展することでDV加害者の人格に影響を及ぼし、DVを引き起こす可能性をつくるということです。

社会的要因

また、そのような個人的な要因だけではなく、社会的な要因もあります。

①性別役割意識

今でも家父長制、家制度の名残で夫婦の代表は夫であるとする社会通念があります。この通念を支えているのは「男が主、女は従」とする考え方です。男と女とでは果たすべき役割が異なるとする、このような考えを性別役割意識といいます。代表的なものが「男は仕事、女は家庭」です。

男性の役割は稼ぐことにあり、女性の役割は、衣食住を始めとする家庭の運営にあるとする考え方です。性別役割意識では、夫が仕事をしやすいように家を守るのが妻の役割だから、家庭では、夫は自分の要求や気持ちが優先されて当然と考え、そうならないのは妻が十分に役割を果たしていないからだと考えるわけです。実際に夫から妻への暴力の多くが、こうした性別役割意識に基づく不平不満を口実にふるわれています。

②女性の経済的自立の困難

男性優位の社会というのは、労働環境について特に顕著です。労働人口の4割を女性が占めている現在でも、その働きは正当に評価されず家計補助の位置づけのままというのが現状です。そのため働く女性の半数がパート、アルバイトなどの非正規雇用であって、年収の平均は男性の6割程度でしかありません。

そうなると、女性が経済的に独立することが困難となり、夫に頼って生活していくことになります。DVの加害者は、女性を支配下に置きやすくなるわけです。

③育児や介護に対する社会通念

また、女性が労働環境で正当に評価されづらい理由の一つとして、育児や介護の問題があります。まだ日本では、「育児や介護の責任は母親が担うもの」という社会通念が強く残っています。

これも女性の自立を阻む原因となっています。

加害者へのケア

加害者は自分が行っていることがDVであるという意識が欠如していることも

多いと言われます。大切な人との人間関係がうまくいかない、という場合は今一

度自分の言動をよく振り返ってみる必要があります。

また、先ほどお話ししたように、加害者は実は自分自身が虐待の被害者であるこ

とも少なくありません。回復のプロセスとして、自分のそのようなつらい過去に

向かい合う必要があります。そのような場合は、自助グループに参加するのも一

つです。日本ではまだまだ少ないですが、加害者のための更生プログラムを行っ

ているところもあります。

また、カウンセリングを受けたり、勉強するのも一つの方法です。

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カテゴリ:コラム